すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する
“持続可能な開発”が環境破壊問題として議論し続けられたなか、目標8「働きがいも経済成長も」は、経済問題をSDGSの議論の俎上に乗せるトリガーになったことは非常に重要です。
ようやく、経済・社会・環境がひとつのテーブルにて議論されるようになりました。
ターゲット8.4では、「経済成長と環境悪化の分断を図る」と明確に謳っていることが特徴的だともいえます。
さて、これまで多くの議論が積み重ねられてきましたが、2019年暮れから発生した新型コロナウイルスは国内外の経済環境へ甚大な影響が及ぼしました。この感染症拡大で、国連広報センターが積み重ねてきたデータも継続して取れなくなってきたとも言われています。
2021年度時点で、全世界では2億5,500万人、また、国内では11万人の人が仕事を失ったというデータがあります。(SDGs推進機構/小学生からのSDGs)
目標8は企業変革へのエンジン
しかし、この目標8こそ、企業や組織を変革し成長させるためのエンジンとも言えるものです。これまでの経済成長モデルは*VUCAの時代にはそぐわないものとなっています。
大量にモノを作り大量に売る、温室効果ガスをためらいもなく出す、人材は限りなく無限に近い、調達はとにかく安ければ良い、そんな時代でなくなりました。
ターゲット8.1で、年率7%の成長
ターゲット8.2で、多様化、技術力向上及びイノベーション
ターゲット8.9で、持続可能な観光業、8.10では、国内の金融機関、と直接言及しているものもあり、これらの業界は、それぞれ、UNWTO(国連世界観光連盟)からのメッセージや国連責任銀行原則などへコミットメントでSDGS推進に向けて動き出しています。
さらに、
ターゲット8.5で、若者や障がい者、女性の雇用
ターゲット8.7で、強制労働や児童労働問題
ターゲット8.8で、移住労働者問題
など企業の人的資源管理の重要性まで踏み込んでいることも特徴です。
また、企業変革の文脈のなかで議論されるのが、「技術イノベーション」や「働き方改革」などのキーワードです。「技術イノベーション」については、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の中で触れていく予定ですが、ここで取り上げたいのは「働き方改革」についてです。
働き方改革とは
2019年、厚生労働省発表によれば、「働き方改革」とは、働く人びとが、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようにするための改革、と定義されています。また、働き方改革関連法も矢継ぎ早に出されました。
「働き方改革関連法」は具体的な法律の名称ではなく、以下の8つの改正労働関連法のことを指します。
・労働基準法・労働安全衛生法・労働時間等の設定の改善に関する特別措置法・じん肺法・雇用対策法・労働契約法・短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律・労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
これらすべての法律を詳細に把握する必要は専門家でない限り必要ないかもしれませんが、少なくとも企業の担当者は労働三法(「労働基準法」「労働組合法」「労働関係調整法」)の理解は必要ですし、また、非雇用者も最低限に知識は必要です。
企業の役割とは
職場に心理的安全性の担保
「心理的安全性(psychological safety)」とは、組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態のことです。組織行動学を研究するエドモンドソンが1999年に提唱した心理学用語で、メンバーや上司部下間で「メンバーの発言や指摘によって人間関係の悪化を招くことがないという安心感が共有されている」ことが重要なポイントです。
まさに、目標8は、企業が持続可能な活動ができるために、企業の経営遂行責任とも言えるサプライチェーンを通して組織マネジメントの重要性が示されています。
*VUCA=「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」
目標8 働きがいも経済成長も ターゲット一覧
8.1 各国の状況に応じて、一人当たり経済成長率を持続させる。特に後発開発途上国は少なくとも年率7%の成長率を保つ。
8.2 高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことなどにより、多様化、技術向上及びイノベーションを通じた高いレベルの経済生産性を達成する。
8.3 生産活動や適切な雇用創出、起業、創造性及びイノベーションを支援する開発重視型の政策を促進するとともに、金融サービスへのアクセス改善などを通じて中小零細企業の設立や成長を奨励する。
8.4 2030年までに、世界の消費と生産における資源効率を漸進的に改善させ、先進国主導の下、持続可能な消費と生産に関する10年計画枠組みに従い、経済成長と環境悪化の分断を図る。
8.5 2030年までに、若者や障害者を含む全ての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、並びに同一労働同一賃金を達成する。
8.6 2020年までに、就労、就学及び職業訓練のいずれも行っていない若者の割合を大幅に減らす。
8.7 強制労働を根絶し、現代の奴隷制、人身売買を終らせるための緊急かつ効果的な措置の実施、最悪な形態の児童労働の禁止及び撲滅を確保する。2025年までに児童兵士の募集と使用を含むあらゆる形態の児童労働を撲滅する。
8.8 移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、全ての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する。
8.9 2030年までに、雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業を促進するための政策を立案し実施する。
8.10国内の金融機関の能力を強化し、全ての人々の銀行取引、保険及び金融サービスへのアクセスを促進・拡大する。
8.a後発開発途上国への貿易関連技術支援のための拡大統合フレームワーク(EIF)などを通じた支援を含む、開発途上国、特に後発開発途上国に対する貿易のための援助を拡大する
8.b 2020年までに、若年雇用のための世界的戦略及び国際労働機関(ILO)の仕事に関する世界協定の実施を展開・運用化する。